コラム
Sysmex Theranostics Report

多重遺伝子診断へのFFPE検体の利用

検体をホルマリン固定するとRNAが崩壊するため、多重遺伝子診断にはFFPE検体ではなく生検組織をそのままRNAlater®液中で保存する、もしくは凍結で使用する方がRNAの品質は良いとされている。一方、FFPE検体を用いることについて現場のニーズが高いことも事実である。そこで、FFPE検体を利用し95GCと同様の予後予測を行う方法を検討した。まず、手術で得られた検体を2つに分割し、一方からFFPE検体を作成し、もう一方は凍結し、その後両者よりRNAを抽出しそれぞれマイクロアレイにて解析を行った。ホルマリン固定により遺伝子によっては検出能が大きく損なわれることが予想されたため、2種の方法で抽出されたRNAについて、95GCで使われている遺伝子の発現データを比較し、FFPEでも比較的検出可能な72遺伝子を選択し、FFPE検体用のClassifier、72GCを構築した。現在、症例数を増やした検証を進めている。

抗癌剤感受性予測法:IRSN-23

N A Cにおける抗癌剤感受性予測法、I R S N - 2 3(immune-related 23-gene signature for NAC)について紹介する。IRSN-23は、乳癌原発巣の検体を用い、23個の遺伝子の発現を解析することで、NACへの感受性を予測する。

まず、大阪大学でNAC(P-FEC:週1回のPaclitaxcel治療を12回、3週に1回のFEC治療を4回)を施行した117例について、NAC前のマンモトーム生検(MMT)検体からRNAを抽出し、マイクロアレイにて3万個以上の遺伝子の発現を測定し、27例のpCR群、90例のnon-pCR群を比較した。発現に差があった上位10遺伝子pathwayのうち8pathwayは免疫関連、残り2pathwayは細胞周期関連であった。そこで、最も関与が強かった免疫関連pathwayに注目し、免疫関連遺伝子群の中からpCR群、non-pCR群間で発現の差が大きい遺伝子を数学的手法で抽出し、23遺伝子からなるIRSN-23を構築した。IRSN-23のValidationはGEOより独立した901例のデータを抽出して実施した。

その結果、全てのサブタイプ(Luminal A, Luminal B, HER2, Basal)において、また、治療レジメンによらず有意に効果予測可能であった(図7)。過去に、Anthracycline系抗がん剤等の感受性予測因子としていくつかの単一遺伝子が研究されてきたが、多重遺伝子診断とすることでそれら単一遺伝子による効果予測より精度を上げることができたと考える。現在、IRSN-23のスコア化を検討中である。

マイクロアレイの将来展望

現在、ER、PR、HER2、Ki67の発現は免疫染色(IHC)、FISHで検査されている。我々は、これをマイクロアレイで測定できないかを検討した。癌に関するマーカーは年々増加し検査項目も毎年のように増加していく傾向があるため、全てをIHCやFISHで検査することは困難になることが予想される。一方で、95GCはマイクロアレイで全ての遺伝子の発現を測定するため、マイクロアレイのデータが有効利用できれば病理部、検査部の負担軽減にもなると思われる。ER、PR、HER2はIHC/FISHによる従来の判定結果とマイクロアレイのデータがよく相関し、陽性/陰性の判定一致率も高いことが判明した(図8)。一方で、Ki67は一致率があまり高くなかったため、臨床的な有用性として、IHCとマイクロアレイのどちらがNACのpCRを予測できるか、あるいは術後再発を予測できるかを検討したところ、いずれもマイクロアレイの方が高い精度で予測できることが明らかになった(図9)。Ki67はIHCでの陰性/陽性の境界値の設定が難しいことが指摘されているが、マイクロアレイを用いることで、安定して客観的かつ有用に判定できる可能性が示された。

現在、術前に採取したVAB(MMT)検体から病理学的に浸潤癌であることの確認を行っているが、将来的には、VAB検体を用いたマイクロアレイ解析により再発予後予測、薬剤感受性予測、サブタイプ分類、各種マーカー検査などが治療前に一度に検査可能になると考えている。今後の展望として、例えば95GCを実施すると95遺伝子以外に3万個以上の遺伝子の発現データが得られ、症例数が増えることでマイクロアレイのデータが蓄積されるため、ある程度蓄積された時点でそれら自体を新たなData set(Training Set)として活用し、95GCの予測精度を向上させることに挑戦したい。個人情報の取扱いなどクリアすべき課題もあるが、例えば10年以上データを蓄積した後に晩期再発の予測法構築を検討することなどが理論上は可能となるため、将来的には実現したいと考えている。

次世代乳癌診療への挑戦

最後に、これらの多重遺伝子診断法がその組み合わせにおいて、実際の乳癌の診療にどのように用いられる可能性があるかを示す。

まず、腫瘍径約2cm以下かつN-という最も多いタイプの乳癌について、最近はCNB、VABによる生検を治療前に行う傾向にある。我々はこの検体を用いて、不要なセンチネルリンパ節生検(SLNB)を回避するためのLuminal Aを対象としたリンパ節転移予測法、GNI(Genomic Nodal Index)を開発した(図10)。GNIはTraining Setおよび2種類のValidation Setのいずれにおいても0.7以上のROCAUCを示しており、不要なSLNBを減らすことができると考えている。GNIにより、High-riskと判定された場合には、術中にSLNBを施行し、OSNA®法にて腋窩リンパ節廓清(ALND)を行うかどうかを判断することとなる。OSNA法は上皮細胞のマーカーであるCK19 mRNAをターゲットとしたリンパ節転移検査法であり、術中に迅速に結果を得ることが可能である。なお、ここでもnon-SLN metastases予測法(NSLNM-Prediction)を用いて、SLN陽性であってもnon-SLNの転移の可能性が低いため追加廓清は行わないという選択を術中に行うことが可能である(図11)。術後については、前述の通り95GCによる予後予測の結果から、術後補助化学療法の適応を検討することになる(図12)。

次に、腫瘍径が約3cm以上の場合、多くはNACの対象となるため、腫瘍のマーカー発現については現在でも多くの場合、術前に生検にて検討されている。そして、HER2陽性ならTrastuzumabを含むNAC、HR陰性/HER2陰性の場合にもNACを施行する。これらの治療方針は迷わない。一方、HR陽性/HER2陰性の場合、特にN-であれば全例に化学療法を行うことはオーバートリートメントだと考えられ治療方針を迷うことになる。そこで95GCを用いて判定し、Low-riskであれば術前ホルモン療法施行後に手術を行い、High-riskなら術後の再発リスクが高いためNACで腫瘍を縮小させてから手術を行うというオーダーメイド治療が可能になる。術後については、PEPI scoreにて術後補助療法の適応を検討する。抗癌剤を使用する際はIRSN-23にて薬剤感受性を予測することになる(図13)。

さいごに

乳癌の診断で最も重要な癌か否かの診断、浸潤癌か非浸潤癌かの診断には病理組織学的検査が必要である。その上で浸潤癌と診断された後に、本セミナーで紹介した各種の多重遺伝子診断法が治療方針決定の補助として有用になると考えている。今回紹介したマイクロアレイというプラットフォームは、一度の検体処理、一度の測定で、95GCなどの再発予後予測、IRSN-23などの薬剤感受性の予測、Subtype分類、ER/PR/HER2/Ki67などの各種遺伝子マーカーの発現判定など多様に応用できるという利点がある。マイクロアレイは10年後にはIHCのようなルーチン検査になるのではないかと予想している。今後、マイクロアレイを用いた多重遺伝子診断を実臨床に応用することで、乳癌の個別化医療がさらに発展していくものと期待される。

総評

今日、多くの腫瘍に対し個別化医療の実現がめざされている。今回、直居先生に乳癌の個別化医療を実現する分子診断の展望についてお話しいただいた。マイクロアレイを用いて開発した95GCは乳癌患者を再発high risk群とlow risk群の2群にわけることが可能で、その後の治療選択が容易にできることなど、これまでの方法に比べ、実臨床に有用であり、日本発の素晴らしい成果であろう。さらに、マイクロアレイによる抗癌剤感受性予測法(IRSN-23)の開発や、ER、PR、HER2、Ki-67発現判定も可能であること、これらを用いることで可能となる個別化医療のストラテジーを示していただいた。95GCは実用化されているが、他の多重遺伝子診断法も具体的で、現実的であり、近い将来、これらを用いることで乳癌個別化医療が可能になることが期待される。



大澤 政彦 先生
大阪市立大学大学院
医学研究科
診断病理学 教授
第104回日本病理学会総会ランチョンセミナー15 (2015年5月1日) より抜粋
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