コラム
Sysmex Theranostics Report

乳癌個別化医療を実現する分子診断の展望 直居 靖人 先生 大阪大学大学院医学系研究科 乳腺内分泌外科 医学部内講師

はじめに

乳癌の診断・分類において中心的な役割を担うのは、これまでもこれからも病理組織学的検査であるが、近年、補助的診断法としての遺伝子検査が多数開発され、治療法選択の新たな判断基準の提供という臨床への貢献が始まっている。本セミナーでは、複数遺伝子の発現解析を利用した診断法、Multi-gene Classifierを中心に、乳癌の個別化医療に遺伝子診断がどのように貢献しつつあるかを紹介する。

乳癌再発予後予測法、95GCの開発

我々は、乳癌患者の予後を予測し術後化学療法を実施すべきか否かの判断に役立てる目的で95 Gene Classifier(95GC)を開発した。遺伝子の発現解析には、3万個以上の遺伝子の発現解析が可能で、海外の主要な医療機関、研究機関の多くが採用し、そのデータがGEOなど公共のデータベースに多数登録されているAffymetrix社のマイクロアレイチップ U133 Plus 2.0を用いた。

まず、GEOから、ER陽性/リンパ節転移陰性(ER+/N-)術前化学療法(NAC)非施行の549例(再発167例、非再発382例)の遺伝子発現データを抽出し、Training Setとした。3万個以上の遺伝子の発現データから、再発/非再発を効果的に予測できる遺伝子を数学的手法により絞り込んだところ、95遺伝子でROCカーブのAUCが最大となった。選択された95遺伝子には、細胞周期、細胞分裂に関与する遺伝子が多く含まれていた。この95遺伝子でClassifierを構築し(図1)、95GCと名付けた。95GCはTraining Setの549例だけでなく、Training Setとは独立した459例(ER+/N-/術後ホルモン療法のみ施行)からなるValidation Setについても、再発/非再発(High-risk群/Low-risk群)を有意に分けることができた(図2)。

さらに、Validation Setのうち病理学的グレード分類が判明している148例を解析したところ、95GCはグレード1、2、3のいずれについてもHigh-risk群とLow-risk群を分けることが可能であり(図3)、HER2陰性の114例についても同様に2群に分けることが可能であった。以上のことより、95GCは病理学的グレード分類とは独立した再発予後予測因子であると考えられた。

また、95GCの本来の対象患者ではないNAC施行例について同様に分類したところ、High-risk群のNACにおける腫瘍消失(pCR)率は、Low-risk群のpCR率に比べ有意に高いという結果が得られた(図4)。再発リスクの視点だけでなく、High-risk群は化学療法が奏効しやすいため術後化学療法の良い適応となり、Low-risk群は化学療法が奏効しにくいためホルモン療法単独治療の良い適応となると考えられた。

さらに、腫瘍径と95GCの判定結果別に5年後の非再発生存率をみると、Low-risk群はT1で100%、T2で93%であり、Low-risk群は腫瘍径に関わらず術後化学療法が不要であると考えられた。一方で5年以降の晩期再発については、多くがLow-risk群で発生していた。5年以降に再発が減少するHigh-risk群は化学療法+5年間のホルモン療法、5年以降もある程度の頻度で再発が起きるLow-risk群は10年間のホルモン療法が適することが示唆され、95GCを利用することで、このような個別化医療が可能になると考えられた(図5)。

95GC検査の実際の流れ

95GCは、2013年より、「CurebestTM 95GC Breast」の名称でシスメックス株式会社が研究用解析受託サービスを提供している。対象はER+/N-の患者となるため、術中のセンチネルリンパ節生検によりN-を確認し、その後、手術時標本4mm角の切片をRNAlater®溶液の入ったサンプルチューブに入れ提出する。検体採取には皮膚科で汎用されている4mm径の生検トレパン(BIOPSY PUNCH)を用いる方法が推奨されている。また、凍結保存された検体も、同様の方法で提出可能である。結果は、95遺伝子全ての発現データと共にL/Hの判定が報告される。我々の依頼した結果では、検査の成功率は97.3%、同一腫瘍の異なる2ヵ所から採取した検体間での結果一致率は95.3%であった。

Oncotype DX®との比較

Oncotype DX®はNCCNガイドラインにも記載されている乳癌の術後予後予測法で、21個の遺伝子の発現量を比較しLow、Intermediate、Highにリスク分類する。Oncotype DX®と95GCを直接比較することはできないため、マイクロアレイデータからOncotype DX®とほぼ同じ解析結果を得ることができるRecurrence Online(以下21GC)を利用し、95GCとの比較を行った。独立したvalidationとしてデータベースから抽出した1,419例(全subtype)のデータを両方の予測法で判定したところ、95GCでは2群に、21GCでは3群に有意に分類することができた。そこで、21GCでIntermediate-riskに分類された300例について95GCで再度予後を予測したところ、High-risk群とLow-risk群に有意差をもって分類することができた。そのうち459例(ER+/N-/術後ホルモン療法のみ施行)においても同様の結果が示された(図6)。

実臨床では主にGrade2等の判断に迷う症例を検査に出す傾向があるため、Oncotype DX®の大規模メタアナリシス(Carlson JJet al. Breast Cancer Res Treat. 2013)や国内医療機関の報告では、実際の結果は約4割がIntermediateと判定されているとのことである。その点、95GCは結果がHigh-risk/Low-riskで判定されるため、臨床的に有用であると考える。

第104回日本病理学会総会ランチョンセミナー15 (2015年5月1日) より抜粋
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