コラム
Sysmex Theranostics Report


乳がん個別化医療を目指した
多遺伝子アッセイ95GCの開発

野口 眞三郎先生
    大阪大学大学院医学系研究科
    乳腺・内分泌外科 教授

はじめに

2000年のNIH Consensus Conferenceにて、1cmを超える浸潤性乳がんでは、閉経の前後、ER陽性又は陰性、さらにリンパ節転移の有無に限らず、化学療法を実施すると予後が改善すると報告がなされ、化学療法が標準治療とされてきた。しかし最近の研究では、いわゆるLuminal AのようなER陽性/PR陽性/HER2陰性の乳がんについては化学療法をやり過ぎではないかという報告がなされてきている。しかしながら、病理組織検査から得られる限られた情報から予後を予測し、化学療法の要否を決定することは難しく、適切な治療方針の決定に苦慮していた。このような背景から21遺伝子を用いて予後予測を行うOncotype Dx®が開発された。

我々は、Oncotype Dxとは別に、独自に乳がん患者の予後を予測する診断法の研究を行い、Affymetrixのマイクロアレイを用いた「95 Gene Classifier(以下95GC)」を開発した。マイクロアレイを用いて多数の遺伝子発現データを得ることで、予後の予測だけでなく、薬剤感受性の予測やIntrinsic subtypingが可能となり、より質の高い個別化治療を実現できるのではないかと考えている。

95GCの開発

我々は、まずリンパ節転移陰性(n0)/ER陽性/化学療法なしの549例をTraining Setとした。再発例と非再発例で発現に有意差がある遺伝子を比較すると、95個の遺伝子を組み合わせた際に最も予後予測精度が上がることが確認され(図1)、このセットを95GCと名づけた。多変量解析を行ったところ95GCは有意水準の高い、独立した予後予測因子であることが示された。大阪大学の症例を用いたValidation Setにおいて、95GCの精度と再現性を確認したところ、Training Setと同様の強い有意差をもって予後が異なる2群(High-risk群、Low-risk群)に分けることができた(図2)。

次に、再発予測に関して95GCとOncotype Dxとを比較した。直接比較が出来なかったため、Affymetrixのマイクロアレイから得られた遺伝子発現情報を Recurrence Online(http://recurrenceonline.com/)に入力し、Oncotype Dx(21遺伝子)のRecurrenceスコアに換算することで95GCとOncotype Dxを間接的に比 較した。新たに選択した459例の検体群n0/ER陽性/ホルモン療法ありで検証した結果、95GCではLow-riskとHigh-riskの2 群に、OncotypeDxの21GCではLow-risk、Intermediate-risk、High-riskの3群に分かれて有意差を示した(図3)。さらに、21GCのIntermediate-risk群81例を95GCで分類したところ、有意差をもってほぼ半数ずつの2群に分かれることが確認された。これを受けて、95GCと21GCを組み合わせた手法(95/21GC)を評価したところ(図4)、化学療法を省略可能と考えられるLow-risk群が324例と、それぞれ単独の方法で解析した場合より約40例程度増加した。これにより、95GCとOncotype Dxの掛け合わせにより診断精度が向上すると考えられた。

さらに、95/21GCと薬剤感受性との関係を術前化学療法(NAC)症例において検討した。ER陽性/NAC施行ありの患者359例を対象にした結果、95/21GCのHigh-risk群のpCR rateは17.9%で、Low-risk群の3.6%と比較して、有意に高いことが示された。これにより、再発率が高いHigh-risk群は化学療法の感受性が高く、抗がん剤の良い適応となることが推測される。

本95GCについては「CurebestTM 95GC Breast」という名称でシスメックス株式会社(以下シスメックス)がアッセイサービスを開始する予定になっている。実運用については、T1-2/n0/ER陽性/HER2陰性の患者が対象となる。手術時の検体をRNAlater®溶液に漬けて保存した後、シスメックスの検査ラボに送付すると結果が2~3週間で返却される。High-riskであれば化学療法を、Low-riskであ ればホルモン療法を適用することになるだろう。

抗がん剤感受性予測モデル「IRSN-23」

我々は薬剤感受性についても研究を行っている(IRSN-23)。NACとしてPaclitaxelとFECを投与した群に対し、マンモトーム(MMT)で採ったサンプルの一部からRNAを抽出し、マイクロアレイのアッセイ結果からpCR rateを予測した。117例を対象とした測定では、pCR rateは23.1%であった。pCRに関連するパスウェイについて解析をした結果、pCR群とnon-pCR群間で有意水準が高かったトップ12のうち、9個が免疫に関連したパスウェイであった(図5)。免疫関連パスウェイが活性化しているということは、すなわち原発巣に浸潤しているリンパ球の遺伝子発現状態を反映していることを示唆する。一方、がん細胞関連のパスウェイでは、Cell cycleに関連したものがわずか にあった。これらの結果から、免疫とCell cycleに関連したパスウェイにより薬剤感受性が決定されていると考えられたため、我々は対象とする遺伝子を絞って解析を行った。上記の117例をランダムにTraining SetとValidation Setに分け、まず免疫関連遺伝子について検討をした。pCRとnon-pCRで有意差が認められた遺伝子を選び、Signatureを構成した結果、23個の遺伝子を選択したときに最も診断精度が高くなることが判明した。Validation Setの場合、IRSN-23を用いた解析では、Gp-R(薬剤感受性が高いと予測される症例)と判定された群では、実際のpCR rateが37.5%、Gp-NR(薬剤感受性が低いと予測される症例)と判定された群では、全てnon-pCRであった(図6)。

次に複数のPublic databaseを用いて大規模なValidation Studyを行った。NACを受けた全901症例についてIRSN-23で薬剤感受性を判定した場合、どのデータベースにおいてもオッズ比は同等で、平均して4.83倍、つまり、IRSN-23のResponder群は4.83倍pCR rateが高かった。また、pCRに関係する因子、HER2、ER、Histologic Gradeを含む多変量解析においてもIRSN-23が最も精度が高い結果となった。

サブタイプ別の検討では、IRSN-23で判定したところ、全てのサブタイプで有意差があることが確認された(図7)。pCR例が少ないと言われるLuminal Aでも、Gp-Rが28.6%と薬剤感受性があると予測される群を選択することができた。このようにIRSN-23を用いた薬剤感受性の予測により化学療法の要否を選択することが可能となった。また、治療法別についても検討した結果、どの薬剤でも同様のオッズ比を示すことが分かった。これはIRSN-23が免疫リンパ球の遺伝子発現パターンを解析しているためであり、化学療法であればどの薬剤(Anthracycline-Taxane)を使用しても同程度の予測が可能であると推測された。

第51回日本がん治療学会学術集会(2013年10月25日) 学術セミナー20より抜粋
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